巨視サイズのイオンが逆符号に帯電する (電荷の符号が逆転する) 現象が、ある条件が満たされた室温の溶液中で起きます。ここで 「巨視的」とは、原子に比べて大きいサイズと電気量をもつという 意味です。 液体やプラズマのディバイ遮蔽理論に慣れた人は、 この現象は信じられないでしょう。なぜなら電場が プラズマの雲により単調に遮蔽されるはずなので。 この原因は、静電気力の相互作用の強さに あります。つまり、この相互作用の指標である クーロンエネルギーが、粒子の拡散をもたらす 熱エネルギーよりも大きく、そして同時に巨視イオンの周囲に集まる 対イオンが多価(Ca2+やAl3+など)であるときに、電荷逆転の現象が 発生します。これは、ディバイ理論が成り立たないクーロン強結合 状態で、電荷をもつ粒子間の相関 (個々の粒子が互いにどこにあるか を認識する)が強く効きます。このため、粒子分布がボルツマン分布 から大きく修正されています。面白いことに、正と負の電気量が等しい 中性溶液(プラズマ)でも、この相関のため、クーロン強結合状態では 引力が斥力にまさり構造化が起きます。実際、十分に温度を下げると クーロン結晶ができます。 右上の図は、赤い球で描かれた負のマクロイオン(巨視イオン)の 周囲に、水色の3価の正イオンがクーロン(静電気)力で多数凝縮 しています。青いのは(-1)価の共イオンで、対イオンの表面に選択的 に凝縮しています。これは、共イオンと対イオンが引力で引き合い、 共イオンはマクロイオンから斥力を受けるからです。このため、共イオン の凝縮が起きるためには、対イオンが多価である必要があります。 マクロイオンの帯電(電荷密度)が小さいDNAなどの場合は、 対イオンとして球形イオンではなく連鎖した高分子イオンを用いると、 電荷逆転が促進されます(下図を参照)。 よりくわしい解説は、固体物理(2002年4月号)に掲載された解説 を、また電荷逆転現象の物理機構など詳細は、以下に挙げた論文と そのなかの参照論文をお読みください。 参考資料: イオン性ソフトマターの物理 「固体物理」 2002年4月号 Staticな環境下での電荷逆転 J.Chem.Phys. 115(2001) 高分子"DNA"の電荷逆転の可能性 J.Physics: Condensed Matters(2004) 高分子対イオンを用いた効率的な電荷逆転の誘起 (a) 3価モノマー、(b) 1価モノマーの場合 前のページへ戻る |